オレの土地!では済まない

氏子入り

 「キミはここの氏子だ」
 わが家(仮)の隣にある神社に導かれ、私にそう言って鈴を鳴らし二拍一礼した。私もそれに習って二拍一礼。

 初詣にも墓参りにも行かない、極めて信仰心の薄い人間だけど、豊作祈願を由来とする神社の隣に住んで農業やっていこうというのに、信仰の自由を盾に断るわけにもいかないだろう。

 他の思想を排除する一神教、戒名で金儲けする仏教や歴史のない新興宗教ならば少々考えてしまうけれど、八百万の神といってなんでも取り込んでしまうユルい神道に限っては元々アレルギーがない。ここは素直に従うことにした、正直祭りにかり出されるのは面倒だけど。。。

農業委員登場

 3反の農地付き物件を購入するため、南伊豆町役場に農地法第3条の許可申請書を提出したのが先月26日、今月19日に開催される農業委員会の審議を経て決定される。一昨日役場から電話があって、今日地区の農業委員が現地調査をしたいとのこと。

 9時30分ジャストに役場の白い軽箱バンが到着。70歳代の農業委員と役場担当者をお出迎えする。挨拶もそこそこにさっそく現場の農地へ向かう。山を隔てて500mほどの近所に住む委員は当地で生まれ育ったとのことで、私が買う家のこともよく知っていて道すがらいろんなことを教えてくれた。

 

この家の歴史

 いまでこそ20坪ほどのこじんまりとした家だけど、昔は広いお屋敷が建っていて、多くの使用人を抱えるこの地区のボス的存在であったらしい。確かに宅地が500坪とやたら広いし、後背に神社を背負っているとなれば、それなりの名家であったことが伺える。

 跡取り息子は大工だったけれど、東京の女性と結婚し転出。当地に残る母のために自らこの家を建てたけれど、5年も経たずに他界。下田市に嫁いだ娘が相続して庭木の手入れなどしていたものの、親戚の集まりに使う程度でずっと空き家だったとのこと。どおりで築22年のわりに全然痛んでいないわけだ。
 そして娘も高齢になり車で20分強の下田市から手入れに訪れるのが負担になってきたため、不動産屋に売却したということだ。

果樹園

 神社の裏に広がる鎮守の森のなかに2反弱の果樹園がある。
 
 南向き緩斜面で日当たりが良く、委員も子供の頃よくここで遊んだそうだ。
 静岡県といえばミカン、栃木県では寒くて栽培できないミカンの木がたくさんあるので、食料自給率がさらに上がる。
 
 新規就農とはいえ自給自足が第一の目的で、農業収入を得るのは二の次。畑は1反もあれば季節の野菜をまかなうに十分だけど、農地法の許可を得るには最低2反の営農を求められる。果樹は剪定と摘果くらいで野菜に比べれば面積当たりの手間がかからないので、農地法の最低ラインをクリアしつつ、畑と果樹それぞれちょうどよい面積を持つ物件に巡り合えたのは幸いだった。
 森に囲まれ他の民家や道路からは全く見えない隔絶された空間で、神社の巨木がそびえてとても雰囲気がいい。草地に腰を下ろし日向ぼっこしていると、なんとも幸福な空気に包まれる。自分の土地だとなおさら格別の味わいがある。

 実はこの果樹園が自分的には当物件購入の決め手になっていて、今家が建っている場所よりずっと落ち着く空間なので、いずれ隣接する山林内に茶室を建てて静かな暮らしがしたいと思っている。

 

区(自治会)に入るか

 世間で自治会トラブルは多く、先日も自治会未加入者にゴミステーションを使わせないのは違法との判決が出た。委員も加入を勧めてはきたけれど、決して強制的なものではなかった。

 家から畑までの農道は綺麗に草刈りされ、路肩には紫陽花が植栽されている。今はドライフラワーになっちゃってるけれど、梅雨時期にはさぞ美しい花を咲かせることだろう。

 今はお客様気分で集落の美しい眺めを楽しんでいるものの、当然誰かが手入れしてこそこの景色は保たれているわけで、地区で農地を持つ以上フリーライドするわけにもいかない。
 区費年2万円強は正直高額とは思うけれど、負担はやむを得ないだろう。
 幸いコロナの影響でいままで月1回開催されていた常会(飲み会)が無くなったとのこと。酒を飲まない私にとって苦痛かつ時間の浪費でしかない負担が減るのはありがたい。2万円もほとんどは酒代に消えてるんだろうけど。。。
 

30分ほどで調査終了

 この地区には私のように小規模な農業を志し移住してくる人は多いという。
 しかし有機農法だ自然農だと頭でっかちなわりに直売所に並べられる作物は下手くそで、生活が成り立つ人は少ないらしい。私も5年前に栃木で畑を始めるときにその手の思想にかぶれたことはあったけれど、試行錯誤した結果慣行農法に落ち着いた。



 会話のなかでさりげなく農業の知識や生活費の工面について尋ねられたけれど、野菜栽培の知識はそれなりにあり、生活に支障のない貯蓄があることは理解いただけたのでないかと思う。

 結局のところ地区を乱さずにうまく生活を継続していける人物なのか、というところが最大の関心ごとのようで、別に今さら農業生産を高めようとか、経済発展と税収アップといったところまでは全く求められていない。南伊豆町は移住者も多いけれどそれ以上に若者人口の流出による高齢化と過疎化が進んでいて、私のような中高年Iターン者もウェルカムな雰囲気だった。

 和やかな空気のなかで現地調査は終了、あとは月末の結果通知を待つばかりだ。氏子入りまでさせておいて不許可でした、さようなら、なんてことはないと思うけど。